【個人事業主の妊娠・出産の乗り越え方】開業社労士の一例

個人事業主やフリーランスとして働く女性にとって、妊娠・出産を迎えるときに「仕事をどう続けるか」は大きなテーマになると思います。特に「会社員のように長期で休業するのは現実的ではないけれど、どう継続していけばいいのか不安」という方も多いのではないでしょうか。

私は社労士として開業後、2度の妊娠・出産を経験しました。この記事では、その体験をもとに、以下のような方を想定して書いています。

  • 妊娠中、または妊娠・出産を予定していて「仕事を続けられるか不安」を感じている社労士の方
  • 開業を考えている社労士の方
  • 他の士業など事務系の仕事をしている方
  • スポットより継続業務が中心で、在宅対応が可能な個人事業主の方

ここで紹介するのはあくまで一例です。業務内容や環境によって状況は大きく異なりますし、一般化できるものではありません。ただ、私自身、妊娠・出産期に同じ立場の事例をほとんど見つけられなかったことから、「こんなケースもある」と参考にしていただければと思い書きました。

体調は比較的安定していたことや、気合いで乗り切った部分もあり、人によっては当てはまらない部分も多いかもしれません。無理に当てはめず、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

目次

妊娠がわかったときの気持ち

妊娠がわかったとき、36歳という年齢もあって、まずは授かれたことへの喜びと安堵の気持ちで胸がいっぱいでした。「妊娠できた」という嬉しさとほっとした安心感は、言葉にしがたいものでした。

一方で胎児がお腹の中で無事に成長し、健康な赤ちゃんを出産できるのか、妊娠期に自分の心や身体がどのように変化していくのかなど、さまざまな不安もありました。とはいえ、実際に最も大きく頭を占めていたのは、赤ちゃんや自分の身体のことよりも「仕事をどう続けていくか」という点でした。開業社労士として抱えている顧問先の業務のことを考えると、仕事を途切れさせずに継続できるか、場合によっては一部の業務を手放さなければならないのか、と妊娠がわかった瞬間から強く意識していました。

対応の方針業務の棚卸し

当事務所は一人事務所であり、従業員を雇っていないため、出産に伴い一定期間は自分で業務ができなくなることを前提に、事前の対応を考える必要がありました。開業社労士として妊娠・出産を経験された方の中には、妊娠を機に人を雇って自分の代わりに業務を任せられる方を育て、事業を継続する方法を選択した方もいると耳にしました。私の場合は、妊娠時点で「人を継続的に雇用して組織として事業を運営する」という形よりも、スポット的に業務をお願いするほうが合っていると判断し、外部への業務委託という方法を選びました。

まずは、抱えている業務を整理し、「自分で続けられるもの」と「人に任せるもの」に分けました。具体的には、

  • 短納期で業務量が多く出産時期の変動に対応しにくいもの(例えば、従業員数100名を超える会社の給与計算など)は自分で抱えることはリスクであるため外部に委託
  • 手続き業務、納期に余裕のある給与計算、顧問先対応(メールやチャット、オンライン面談など)は自分で継続

という形で振り分けました。

このように事前に業務の棚卸しを行い、対応の方針を決めておくことで、妊娠中や出産後も業務を滞らせず、顧問先に迷惑をかけずに済む体制を作ることができました。

出産前に一番悩んだこと

出産前に最も試行錯誤を重ねたのは、給与計算の委託先を確保することでした。スポットで給与計算を任せられる方を探すのは容易ではなく、その理由としては次のような点がありました。

  • ルールや作業内容が非常に煩雑であり、正確性も求められる
  • 短納期で業務量が多く、一定期間の拘束が発生するため、すでに自分の業務で多忙な社労士にとっては大きな負担となる
  • 短期間のみの対応であること

こうした事情から、「果たして安心して任せられる方に出会えるのか」と不安を感じていました。当時は開業間もなく同業者とのつながりも少なく、コロナ禍で交流や勉強会の機会も限られていたため、判断に迷う部分もありました。

しかし、過去のご縁をたどって連絡を取った結果、顧問先も私自身も安心して任せられる適任者に巡り合うことができました。その方は、当該顧問先の業務を担当していた経験があり、業務の進め方をよく理解していたため、スムーズに依頼することができました。

この経験を通じて「単に出産前後の一時的な代替対応」という枠を超えて、定期的に時間を拘束される給与計算業務を今後どう位置づけるかという、根本的な課題意識を持つきっかけにもなりました。結果として、自分にとっても顧問先にとっても、より良い体制を考える契機となったと思います。

出産に備えた業務整理と顧客への配慮

出産は何が起こるかわからず、予定日もあくまで目安にすぎません。悪阻や体調の変化によって、どの程度平常通りに活動できるかも不透明でした。そのため、前倒しで進められる業務はできる限り前倒しで着手しました。

一方で、顧問先への対応では「いつ、どのように伝えるか」のタイミングを重視しました。出産3か月前頃、妊娠が見た目にも分かるようになった時期からは、

  • 予定日前後は一時的に連絡が取れなくなる可能性があること
  • 訪問対応を控え、オンライン面談に切り替えること

をお伝えし、徐々に調整を行いました。

顧問先の皆さまは温かくご理解くださいましたが、立場を考えると「本当に必要なときに連絡してよいのか」と遠慮されたり、「しっかり対応してもらえるのか」と不安に思われても当然です。そこで私は、次のように事前にお伝えしました。

  • 気兼ねなく連絡してほしいこと
  • 出産直後などは、連絡がつかない・返信が遅れる可能性があること
  • それでも必ず返信すること
  • 長期的に対応が難しくなった場合には、顧問料の一部返金も検討すること

特に、妊娠が判明したうえで新たにご契約いただいた顧問先には、状況を丁寧に説明しました。

実際、第2子は予定日より1か月以上早く生まれ、早産となりました。入院中にオンライン面談の予定がありましたが、ネット環境や病室の状況を考慮し、退院後にリスケジュール。顧問先のご理解もあり、大きな混乱はなく乗り切ることができました。

出産後の働き方と育児との両立

出産直後からの働き方

会社員であれば産後8週は休業が義務づけられていますが、私は出産後の入院中から一日数時間程度、パソコンに向かって仕事をしていました。退院後も「完全オフ」の期間はなく、毎日数時間でも何らかの業務を行っていました。とはいえ、在宅での業務が中心なので、無理のないペースで仕事と育児を並行していました。

育児との両立の工夫

授乳をしながらメール確認、片手でパソコン操作と「ながら仕事」で効率を上げていました。寝かしつけ後の時間は書類作成や電話対応の「ゴールデンタイム」。その日の子どもの寝つき具合で業務量が左右されるため、時間が足りないときは深夜に作業をすることもありました。ときには子どもをベビーカーに乗せて助成金センターへ出向いたこともあり、それも今では良い思い出になっています。
私の場合、育児だけに向き合うよりも、仕事が良い意味で気分転換になっていたように思います。

時期による変化

第一子のときは、初めての育児ということもあり、新規案件は受けず、既存顧問先のサポートを中心に取り組みました。一方、第二子のときには第一子での経験から精神的な余裕があり、産後2~3か月目から新規案件の受注も開始。顧問先の数が増えていたこともあり、業務量は確実に増えていました。また、夫の協力もあったことで、保育園入園前の時期でも一定の業務量をこなすことができました。

社労士×個人事業主としてのメリット

個人事業主として働く場合、会社員のような保障はなく、業務を代わりに行ってくれる人がいるわけでもありません。その一方で、働き方の自由度や裁量の大きさといったメリットも多く、妊娠・出産・育児の時期においても非常に助けになりました。

具体的には、以下のような点です。

  • 自分の裁量で仕事量ややり方を調整できる
  • 時間や場所を選んで働ける(在宅中心の業務)
  • 体調が悪ければ昼寝をすることも可能
  • 健診や通院で同僚の目を気にせず休める
  • 子どもの急な体調不良にも柔軟に対応できる

さらに、顧問契約を通じて継続的に支援している業務が中心であるため、出産直前や直後に必要な対応ができれば、仕事を途切らせることなくフォローが可能です。そのため収入面でも大きく変動することが少なく、一定の安定感を持って働けることも、妊娠・出産期には大きな安心材料となりました。

まとめ、読者へのひとこと

妊娠・出産・育児と仕事を両立させる中で、もちろん苦労した点もありました。しかし、それ以上に得られる自由や裁量の大きさなど、メリットを強く感じています。

個人事業主として働くうえで意識しておきたいリアルな注意点は次の通りです。

  • 委託できる業務と自分で抱える業務を明確に切り分けること
  • 特に給与計算のような継続的な業務は、予測できない状況にも対応できるようリスクと向き合う必要があること

それでも、開業して後悔したことは一切なく、むしろ自由に仕事を調整できる点や、体調や子どもの状況に合わせやすい点など、得られるメリットの方がはるかに大きいと感じています。

妊娠中の方も、開業を考えている方も、状況に合わせて無理なく工夫すれば、仕事と育児を両立できることを実感していただけると思います。特に社労士の業務は、顧問契約で継続的に支援している案件が中心であるため、出産前後の時期に調整さえすれば仕事が途切れず、無理なく両立しやすい仕事です。

少しでも「こういう働き方も可能なんだ」と参考にしていただければ嬉しいです。

この記事を書いた人

京都府出身。同志社大学法学部を卒業後、コンサルティング会社(東証スタンダード上場)で企業の管理部門支援に携わり、人事労務の現場を経験。その後、金融関連会社(東証プライム上場)で営業職を経て、自分の知識や経験を社会に還元し、仕事もプライベートも諦めずに長く楽しく働ける環境をつくりたいとの思いから社労士の道へ。社労士事務所勤務を経て2020年7月に独立。二度の妊娠・出産を経て、現在2児の母。

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