妊娠中の社員に必要な職場での配慮とは?法律、事例や対応例を解説!【実践編】

職場で講じなければならない措置と具体的な対応例
労働時間の見直し
身体に負担がかかる業務や長時間労働は、体調不良や妊娠経過への悪影響を引き起こす可能性があるため、労働時間や休憩の適切な調整が重要です
休憩時間の延長、休憩回数の増加、休憩時間帯の変更等
・回数に制限を設けず、適宜休憩を取らせる
・休憩の時間帯をずらしたり、時間を長くするなど柔軟に対応する
時間外労働の免除
・残業は会社が定めた時間数に達した時に面談をし、体調を確認するとともに、全社的に残業を減らすように取り組む
夜勤の免除、早番、遅番の免除、勤務シフトの調整
・シフトは人事・労務管理部門が確認し、身体に無理がかからないよう必要に応じて調整する
・事前に妊婦健診の日程を聞いておき、シフトを組む際に休みやすいように配慮する
休憩
急な体調の変化に備えて、身体を横にして休める休憩室の用意をしましょう
休憩室がない、休憩室に広いスペースがない場合
・打ち合わせスペース、応接室、更衣室などを応急の休憩室として利用する
・横になったり、足をのばして休めるように長椅子を設置する
・カーテンやパーテーションを使用して、人目を気にせず休めるようにする
業務中に休憩を取りやすくする工夫
・立ち作業に従事する労働者のそばに椅子を置き、来客がない時等、適宜休めるように配慮する
・体調次第で適宜休憩を取れるようにし、上司、同僚にも理解を働きかける
業務分担の見直し(特に身体的に負担の大きい業務を行う場合)
「できること」を無理のない範囲で行えるように配慮し、必ず女性社員本人の意向を確認し、一人一人に適した対応を取りましょう
ほかの軽易な業務への転換、配置転換、業務配分の工夫
・書類の作成、PC業務など身体的な負担の少ない事務作業を増やす
・比較的身体的負担の少ない部署への配置転換
・妊娠中の女性社員の担当業務をリストアップし、細分化する。そのうえで、担当業務を再配分する。
現行の業務での負担軽減方法を検討
・重量物の持ち運びなどの作業は免除し、他の社員が行う。
・こまめに休憩を入れながら業務を行う。
妊産婦にとって負担の大きい業務(法令で制限されているもの、一般的なもの)については、基礎編にて紹介しています。
代替要員の確保
妊娠した女性社員への作業制限や業務転換、母性健康管理措置、体調不良による急な休みによって職場内の人員が不足する可能性があるため、業務配分を工夫して代替要員を確保し、サポート体制を構築することが求められます
職場での人員不足への対応
・普段から書類やデータの保管場所や業務の進捗状況など共有に努め、急な休みの時でも周囲がフォローできる体制を整 える
・他部署から応援要請できるよう、情報の共有を行い、欠員が出そうな部署について、事前に把握するようにする
・出産時期を見越して、妊娠報告時点から時間をかけて、引き継ぎ体制を進めていく

計画的な業務引継ぎを行い、女性社員の体調や仕事の状況を把握するためのコミュニケーションツールとして、厚生労働省HPで公開されている育休復帰支援プランや育休復帰支援面談シートを活用しましょう。
母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)について
母健連絡カードとは
「母健連絡カード」は、医師等の女性社員への指示事項を適切に会社に伝達するためのツールです。働く妊産婦の方が医師等から通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合、その指導内容が事業主の方に的確に伝えられるようにするために利用するものです。
会社は、女性社員から母健連絡カードが提出された場合、母健連絡カードの記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。母健連絡カードの記載内容は、医師等の診断書と同じ効力があります。
また、女性社員は、妊娠中や産後に仕事内容が母体や胎児へ与える影響に不安を感じる場合、健診時に主治医等に相談し、診断や指導を受けた際には母健連絡カードを利用して会社に申し出ることができます。
母性健康管理指導事項連絡カード様式 ダウンロード PowerPoint PDF
「母健連絡カード」の使用方法
①妊娠中または出産後の女性社員が健康診査等を受診します。
②主治医等が、健康診査の結果、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置が必要であると判断した場合、「母健連絡カード」に必要な事項を記載して女性社員に渡します。
③女性社員は、「母健連絡カード」を会社に提出して、措置を申し出ます。
④会社は、「母健連絡カード」の記載事項に従い、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置を講じます。


「母健連絡カード」の提出がない場合の対応
「母健連絡カード」はあくまでも主治医等の指導事項を会社に的確に伝えるためのものです。
したがって、「母健連絡カード」の提出がない場合でも、女性社員本人の申出等からその内容等が明らかであれば会社は必要な措置を講じる必要があります。また、その内容が不明確な場合には、会社は女性社員を介して主治医等と連絡をとり、判断を求める等適切な対応が必要です。
参考リンク
厚生労働省委託 働く女性の心とからだの応援サイト「母健連絡カードについて」
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/
ケーススタディ(事例検討)
事例①小売業・妊娠28週の部下を持つ店長のAさんの事例
Aさんはデパートの食品コーナーでを店長を務めています。接客業務を担う妊娠28週の部下が立ち仕事を続けていますが、本人から業務軽減の申し出はありません。当店は人気店で特にAさんが体調を気遣い声をかけたところ、「腰痛や脚のむくみを感じる時もあるが、働けないほどではない。仕事に集中していると気にならないが、帰宅後は寝込むこともある」との返答でした。このまま現在の業務を続けても問題がないのか、Aさんは判断に迷っています。
問題点
Aさんも妊娠中の部下本人も、妊娠経過に伴う体調変化やリスクについて十分な理解がなく、専門的な指導を受けないまま自己判断で立ち作業を継続しており、適切な対応が取られていません。
解決策
医師等の具体的な指導がない場合や措置が不明確な場合でも、社員が妊婦検診時等に職場での仕事内容を医師等に共有し、医師等が発行した母健連絡カードの提出を会社に求めることで、必要な措置を講じることができます。
母健連絡カードの記載例


事例②妊娠12週の部下を持つ企画職上司Bさんの事例
Bさんは、部下から妊娠12週であるとの報告を受けました。これまで妊娠した部下を持った経験がなく、対応に戸惑いながらも、妊娠期間を無事に働き続けてもらいたいと考えています。しかし、「何かあったら困る」との思いから、本人の体への負担を減らすために、産休に入るまでは補助的な業務に専念してもらうことを提案しようとしています。この対応が本人にとっても良いだろうと考えていますが、十分に話し合いは行われていません。
問題点
Bさんが部下の希望や状況を十分に確認せず、自身の判断だけで補助的な業務を提案しようとしています。その提案が部下の意向に沿わず、部下が応じなければならないと圧力を感じた場合、不利益取扱いやハラスメントに該当する可能性があります。
解決策
部下が安心して働ける環境を整えるためには、まず本人の意向や体調を確認し、話し合いを通じて業務内容を調整することが必要です。(その際、厚生労働省HPで公開されている育休復帰支援面談シートの活用が効果的です。)
業務の変更や軽減をする場合は、本人の希望を尊重しつつ、母健連絡カードを活用し、適切な形で進めましょう。また、過度な気遣いや良かれと思って行った対応が、不利益取扱いやハラスメントと捉えられることもありますので、注意が必要です。
事例③飲食業で小規模店舗を運営するCさんの事例
Cさんは社員2名を雇用し、飲食店を経営しています。そのうち1名の社員が妊娠25週で、最近体調が優れず、「接客業務は立ちっぱなしでつらいので控えたい」「重いものを持つ作業も避けたい」と自己判断で多くの業務を拒むようになりました。しかし、代替業務がほとんどないため、出勤中はほとんどすることがなく、時間を持て余している状況です。Cさんは本人に無理をさせたくない気持ちから強く指示できず、結果として状況を放置しています。このままでは店舗運営に支障が出る恐れがあり、対応に悩んでいます。
問題点
妊娠中の社員が体調不良を理由に多くの業務を拒否しており、代替業務がないため出勤中に時間を持て余す状況が続いています。小規模な店舗ゆえに事務作業など身体に負担のかからない業務を用意することが難しいうえ、Cさんは無理強いを避けるため状況を放置しており、店舗運営に支障が出ています。
解決策
妊娠中の社員の希望を尊重することはもちろん重要ですが、会社が判断に悩む場合、社員に母健連絡カードの提出を求め、医師の具体的な指導内容を確認し、それに基づき業務内容を判断しましょう。
また、「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」(労基法第65条第3項)と定められていますが、新たに軽易な業務を創設して与える義務まで課したものではないとされています。(昭61.3.20基発151号)
小規模な店舗で事務などの軽易な業務が用意できない場合は、話し合いを重ねたうえで、勤務時間の短縮や休憩時間の延長など、無理のない働き方を検討して決定しましょう。十分な話し合いをせずに一方的に勤務時間の短縮を指示すると、「母性健康管理措置を講じてもらえなかった」と判断される可能性があるため注意が必要です。
まとめ
2回にわたって妊娠中の女性社員に必要な職場での配慮について解説させていただきました。
妊娠中の女性の身体や心の状況は個人差があります。妊娠時期によっても変化します。1日中何も手につかないほどつわり症状が重症な人もいれば、つわりがほとんどなく、通常通り過ごせる人もいます。精神的に不安を感じ仕事との両立に悩む人もいれば、通常と変わらず働きたい人もいます。特に第一子の場合は、生まれて初めて経験する体調の変化に戸惑い、日々の仕事や生活において不安を感じるものです。(私も第一子のときは、お腹の中の赤ちゃんが順調に育っているのか、今後身体がどのように変化していくのかわからず、突然何か身体に不具合が生じないかなど、心配でした。一方、第二子では、一度経験しているため精神的な安定度は雲泥の差です)
職場では、基礎的な法的事項を把握しつつ、女性社員本人とのコミュニケーションを大切に、安心して働ける環境づくりを目指しましょう。




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